恋を知った塩崎さんがなんか甘い。 〜アイドルだと思っていた推しは、感情ゼロのAIでした〜

そんなある日、突如として出回ったニュース。


宮瀬くんは芸能界から姿を消した。

今でも、「消えた伝説のアイドル」と語られる彼。

表情管理も完璧、顔は二次元級の良さ、そして超かわいい

完全無欠の彼が消えた理由──

視聴率を稼ぎたいYouTuberがこぞって考察動画をあげたのも無理はない。


気分を切り替えて店に向かう。

私の家は家族で弁当屋を営んでいて、私はいつもそこで働いている。

店員なので、ちゃんと振る舞わなければならない。

宮瀬くんのことなんて忘れよう。

店を開けてから10分。

自動ドアが開いて、黒い影が入ってきた。

同い年か、少し上か、それくらいの男性。

身長はそこまで高くない。

大体167cmあるかな?くらい。

無駄のない輪郭、顔色が悪いとまで言えるほど白い肌、無造作な黒髪マッシュ、メガネとマスクで素顔がほとんどわからない。

それに加えてパーカーのフードをかぶっているので、怪しさが倍増する。

黒いパーカー姿の彼は、入り口で店中を見ていた。

見た目だけならどう見ても不審者。

怪しすぎる。

しかし、彼を不審者と呼ぶのは無知な者のみ。



「今日も来てくれたんですね。塩崎さん」



と私は彼に声かける。

相変わらず彼は反応しない。

ちょっと無愛想……違う、クールなんですよね、塩崎さんって。

下の名前とか知らないけど、

ただの常連さんだし、

でも、大事な常連さんだから、笑顔で接さないといけない。



「……昆布ひとつ、お願いします」



おにぎりを手にレジへやってきた塩崎さんに、笑顔で「了解です!」と応える。

そして彼の少し骨張った手に優しくお釣りとレシートを当てる。



「また来てくださいね」



笑え。

もっと笑顔で。

笑顔じゃないと生き残れない。

そう教わっただろ?

無言で去りゆく塩崎さんの背中を、静かに見つめる。

どんな顔なんだろう、塩崎さん。