ただそこに愛があるなら

翌日、要は無事に退院の許可が下りて、帰り支度をする。

「お世話になりました」

荷物をまとめてドクターやナースに挨拶してから、病院を出た。

「緋山、バッグは私が持つわ」

迎えに来た絵美梨が手を伸ばし、要の手から荷物を取った。

「いえ、そんな。お嬢様に荷物持ちなんてさせられません」
「あなたは怪我人なのよ? 私の言う通りになさい。それからしばらくは、屋敷で生活してもらうわね」

ええ!?と要は驚く。

「私が松島家のお屋敷で、ですか?」
「そうよ。一人暮らしでは、なにかあった時に大変だもの」
「そんな、もう大丈夫ですから」
「あら、松島家の人間がそんな薄情者だとでも言いたいの?」
「まさか。そうではなくて……」
「あー、もう、うるさい! 長い話は嫌いなの」

ちっとも長くないですが……とこぼしつつ、これ以上怒らせてはいけないと、要は大人しく口をつぐんだ。

「だだいま、浜子さん。緋山を捕らえてきたわよ。ほら」

タクシーで屋敷に帰ると、絵美梨は出迎えに現れた浜子に得意気にそう言い、要を振り返る。

「まあ、要さん。大変でしたわね。退院出来てなによりです。さ、お部屋を温めてありますから、どうぞ中へ」
「ありがとうございます、浜子さん」

要は屋敷の1階の奥の客間に通された。

「本当にここを使わせていただいて、よろしいのでしょうか?」

確認するように浜子に尋ねると、「もちろん」と浜子は頷く。

「旦那様も、そうしなさいと仰せなの。要さん、なにも心配せずに養生してくださいね」

そう言って浜子が出て行くと、入れ替わりに絵美梨が現れた。

「緋山、私はこれからサロンに行ってくるわ。夕食までには戻ります。お父様が、おじ様やおば様も一緒に、皆で食事をしましょうって。あなたの退院祝いに」
「そんな、めっそうもない。私ごときにそのような……」
「松島の人間を、血も涙もない鬼みたいに言わないで。これくらい当然です。もう行くわ。逃げようと思っても無駄よ。じゃあね」

颯爽と身を翻す絵美梨は、惚れ惚れするほどかっこ良かった。