お嬢様が回復してきた日の夜。
「セナ、少し話さないか?」
声をかけてきたのは、ディランだった。
「……はい」
応じはしたが、正直に言えば――
俺はこの人が嫌いだ。
蝶の会。
宝石事件。
結果的にとはいえ、お嬢様を危険に晒した存在。
だが同時に、この人には――
逃げない覚悟がある。
それだけは、認めている。
静かな部屋。
ランプの灯りが、2人の影を床に落とす。
「セナ。きみに、聞きたいことがあったんだ」
ディランが切り出した。
「……俺も、貴方と話したいと思っていました」
少し意外そうに目を細め、殿下は頷く。
「君は、孤児院のボランティアの一件で
彼女を危険から遠ざけようとしていたね」
「……はい」
本当は、そうしたかった。
だが彼女は――
蝶の会へと、自ら足を踏み入れた。
「俺ともそういう話をしたはずだ」
「はい」
責めるでもないディランは穏やかな声で続ける。
「君は、どうやって折れたんだい?
彼女に説得されたのか?」
……言いたくない。
孤児院の件では、確かに世話になった。
だが――それだけじゃない。
「それとも……あの書類に関係があるのかな」
【多人数連携調律試験 実施申請】
俺は、静かに息を吸った。

