第3部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

訓練場の端で、剣の手入れをしているセナの姿を見つけた。

陽を受けて、磨かれた刃が静かに光っている。

「……セナ」

声をかけると、彼は顔を上げてすぐに立ち上がった。

「お嬢様。もう動いて大丈夫ですか?」

「うん。だいぶいいよ」

そう答えると、セナはほっとしたように息をつく。

「そうですか。ですが、無理はなさらずに」

「ありがとう」

少し間を置いて、私は思い出したように言った。

「そうだ、セナ。手、出して」

「……手、ですか?」

不思議そうな顔をしながらも、セナは言われた通り手を差し出す。

私はそっと彼の手袋を外した。

「お嬢様——」

「動かないで」

手のひらには、潰れたまめの跡がいくつも残っていた。

その一つに、私は小さな薬瓶を開ける。

「お医者様にお願いして、出してもらったの」

白い薬を指に取り、そっと塗り込む。

セナは少し気まずそうに視線を逸らした。

「……これくらい、大丈夫なのに」

「だめだよ」

私は顔を上げて言う。

「大事な手だよ」

彼の指が、わずかに強ばった。

「私ね、セナの振る剣、好き」

「……え?」

突然の言葉に、セナが目を見開く。

「きれいだから」

そう言うと、彼は言葉を探すように口を開きかけて――

「……そんなこと、ありませんよ」

小さく否定しながら、耳が少し赤い。