第3部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

さすがに、結構寝た。
身体も少し軽くなった気がする。

……ひまだな。

そんなことを考えていると、
窓をコン、コンと叩く音がした。

「……?」

カーテンを開けると――

「テオ?」

窓の外で、
ひらりと手を振るテオがいた。

「うん。
お嬢さま、調子どう?」

「だいぶいいよ」

「そっかー、よかった」

ほっとしたように、
柔らかく笑う。

「……それにしても、
なんで窓から?」

「あー、それね」

テオは肩をすくめてから、
少し声色を変える。

「テオ。お嬢様はお休み中です。
入ってはいけませんよ」

目尻をきゅっと吊り上げて、
ユウリの真似。

「……ふふっ」

思わず笑ってしまう。

「少し、似てる」

「でしょ?」

満足そうに頷くと、
テオは何かを差し出した。

「そうそう、これ」

窓越しに差し出されたのは、
小さな――四葉のクローバー。

「これ、
幸せになるってやつだよね。
前に教えてくれたでしょ?」

「……そうだね」

「だから」

そっと、手に乗せられる。

「あげる。
早く、よくなってね」

「ありがとう」

受け取って微笑むと、
テオが、少しだけ距離を詰めた。

そして――
私の手首を、軽く引く。

近い。

思った瞬間、
おでこに、こつんと触れる感触。

「あついね」

「……そうかも」

短い沈黙。

夕方の風が、
2人の間を通り抜ける。

「風邪ってさ」

テオが、ふっと声を落とす。

「うつすと、治るって聞いたことあるけど」

からかうように、
それでいてどこか真剣な色を帯びた目。

「……試してみる?」

ルビーの瞳が私を捉え色っぽく微笑むその顔に、
一瞬、言葉を失う。

近い。
息がかかるほど。

心臓が、
少しだけ、速くなる。