第3部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

「ティアナ?」

殿下の声が低く響く。

「な、なんでしょうか……」

お嬢様がビクリと肩を震わせる。
殿下はゆっくりと歩み寄り、じっとお嬢様を見下ろした。

「俺も良い身体だと思うけど……脱ごうか?」

「そ、そういうことじゃないです!!」

お嬢様の顔が一瞬で真っ赤になる。
殿下はわざとらしくため息をついた。

「それにしたって。こんな近くで浮気とは。困ったお姫様だな」

お嬢様はしれっと横を向く。

「ご冗談を」

軽くあしらっているが、殿下の目は笑っていない。

「……いっそ、閉じ込めてしまいたいな」

その声音に、私は思わずぞくりとした。
殿下なら本当にやりかねない。

だが当のお嬢様は、まったく動じない。

「そんなわけないでしょう」

殿下は肩をすくめ、ふっと笑った。

「まあいいさ。君の新たな一面が見られたということで、今回はそれでよしとしよう」

お嬢様がきょとんとする。

殿下は続けた。

「あのはしゃいだ顔は、なかなか可愛かった。……それを俺に向けられるよう努力するさ」

「えっ……」

お嬢様の目が丸くなる。
殿下はその反応に満足したように微笑んだ。

「レイ、さっさと服を着ろ」

「はい」

レイがシャツを手に取ると――

「え、着ちゃうんですか……」

お嬢様がしょんぼりと呟く。

「お嬢様……」

私は思わず声をかける。

殿下はそんなお嬢様を見て、ゆっくりと近づいた。

「ティアナ……あまりよそ見は許さないよ?」

「へ?」

「俺は嫉妬深いからね」

にやり、と笑う殿下。

お嬢様は一瞬固まり、次の瞬間、耳まで真っ赤になった。

レイは静かに着替えながら、私にだけ聞こえる声で呟く。

「……殿下も大変ですね」

「ええ、ほんとうに」

私は深くため息をついた。