第3部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

「ティアナ……いるか?」

ガチャリ。

殿下が扉を開けた瞬間、空気が凍りついた。

そこには――

上着を脱いでタオルを肩にかけたレイ、
そのレイを興奮気味に見つめるお嬢様、
そして必死にお嬢様を押しとどめている私。


殿下の表情が、ピタリと固まる。

「…………」

沈黙。

そして、低い声で。

「……なんだい、これは?」

お嬢様がビクッと肩を震わせる。

「ち、違うのディラン! これは、その……!」

「説明してもらおうか、ティアナ?」

殿下の笑顔は優しい。
だが、目が笑っていない。

お嬢様は慌てて両手を振る。

「ち、違うの! レイさんが水をかぶっちゃって! それで着替えてて! で、その……筋肉が……!」

「筋肉が?」

殿下の声がワントーン低くなる。

お嬢様は真っ赤になりながら叫ぶ。

「ちがうの! ちがうんだけど! ちがわないけど! いや違うの!!」

言ってることが完全に矛盾している。

レイはタオルを胸に当てたまま、申し訳なさそうに頭を下げた。

「殿下、申し訳ありません。水を浴びてしまいまして……」

殿下はゆっくりレイを見た。
そして、お嬢様を見た。
最後に私を見た。

「……なるほど。状況は理解した」

「つまり――」

殿下は軽くため息をつき、額に手を当てた。

「ティアナが、レイの筋肉に食いついていた、と」

「は、はい」

お嬢様が両手で顔を覆う。

レイは肩を震わせて笑いをこらえ、私は頭を抱えた。

殿下は静かに言う。


「君は全く…」

応接室は、完全なる修羅場と化した。