第3部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

なるほど……やはりか。

「お嬢様、筋肉質な身体が好みでして」

長い付き合いだ。
食の好みも、服の好みも、そして――人の好みも、自然とわかってくる。

「それはまた」

レイが喉の奥で小さく笑う。
濡れた髪をタオルで押さえながら、どこか照れたような、しかし興味深そうな表情だ。

「殿下の身体も均整が取れて素晴らしいですが……お嬢様の好み的には」

私はちらりとレイを見た。

レイは目を丸くする。

「……私ですか?」

「はい。あとは、そうですね。セナの身体もタイプかと」

「なるほど。鍛え上げられた筋肉が好きなんですね」

レイは納得したように頷き、タオルを肩にかけた。
タオルに隠れていた筋肉の線が、光を受けて柔らかく浮かび上がる。

「はい。お嬢様は、努力の跡が見える身体が好きなんです」

「そうでしたか…令嬢たちみんな、殿下の顔と身体が好きだと思っていました」

レイが真顔で言う。

「大半のご令嬢はそうでしょうね」

私もつい笑ってしまう。
殿下の人気は、王都の令嬢たちの間ではもはや伝説だ。

だが――お嬢様は、少し違う。

その“違い”を知っているのは、長年そばに仕えてきた私だけなのだと思うと、胸の奥がほんの少し温かくなる。


「殿下に知られたら大変ですね」

私がそう言うと、レイはタオルを肩にかけたまま、穏やかに笑った。

「そうですね。2人の秘密ですね」