第3部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

「とりあえず、ここを片付けてください」

「は、はい!」

「わかりました!」

「任せてください!」

三人が声をそろえて返事をし、慌てて水浸しの廊下に散っていく。
まあ、花瓶が割れなかっただけ良しとするべきか。

「レイさん、本当に申し訳ありません。こちらへどうぞ」

「ええ」

私はレイを応接室へ案内した。
濡れた靴が床に小さな跡を残し、レイの歩みは静かだが確かに重い。

「こちらタオルです。すぐ着替えをお持ちします」

そう言って部屋を出て、急いで替えの服を手に戻る。
扉を開けた瞬間――思わず足が止まった。

レイは、濡れて張りついた服をすでに脱ぎ、タオルで静かに身体を拭いていた。
滴る水が肩を伝い、鍛え抜かれた筋肉の線を際立たせる。

その姿は、無駄がなく、美しい。

思わず口をついて出た。

「……素晴らしい身体ですね」

レイがキョトンとこちらを見る。
眼鏡を外した素顔は、いつもより柔らかい。

「ありがとうございます」

「とくに大臀筋が素晴らしいです」

言った瞬間、自分でも“何を言っているんだ私は”と思ったが、もう遅い。

レイは一拍置いて――ぐふっと吹き出した。
珍しく、表情が崩れる。

「それ、ティアナ様にも言われました」

「お嬢様に?」

「はい」

どこか照れたような少し嬉しそうな反応をする。