静かに廊下を進んでいたところに、突然けたたましい声が響いた。
「ちょっと、これどこ持っていくんですか!?」
「お嬢さんの書斎!!」
「それにしたってなんでこんな重いんだ!?」
わらわらと廊下を塞ぐ三つの影。
アレン、レオ、ロベルト――騎士二人とお嬢様の料理人。
彼らの腕には、大きな花瓶。
しかも、ちゃぷん、ちゃぷんと水の音がする。
まさか、水入りのまま運んでいるのか?
「ちょっと、やめなさい」
そう声を発するより早く――
バシャーンッ!
派手な水音が廊下に響き、冷たい水しぶきが飛び散った。
そして、見事にレイの全身へ。
「す、すみません!!」
「わあ、びしょびしょですよ!」
「ど、どうするんだ!」
三人がそろいもそろって慌てふためき、右往左往する。
レイはというと、濡れた前髪を静かにかき上げ、眼鏡を外した。
水滴が顎先から落ちるのに、表情は驚くほど涼しい。
「いえ、大丈夫ですよ」
その落ち着きに、逆にこちらが焦る。
「大変申し訳ありません……!」
私は慌てて頭を下げた。
レイは軽く首を振り、穏やかに微笑む。
「お気になさらず。それより――」
視線を三人へ向ける。
「そもそも、なぜこんな大きな花瓶を運んでいるんですか?」
レオがオロオロしながら答える。
「お嬢さんの書斎に置いたらきれいだと思って!
お嬢さんも“好きにしていい”って言ってたからぁ!」
「だったら、なんで水を先に入れるんですか」
私の指摘に、三人は同時に固まった。
「た、たしかに……」
「盲点だった……」
「いや、普通気づくだろ……」
三者三様に肩を落とす姿が、なんとも言えず情けない。
廊下には水たまり、花瓶は空っぽ、そしてレイはびしょ濡れ。
静かな伯爵家の廊下に、妙な間だけが残った。
「ちょっと、これどこ持っていくんですか!?」
「お嬢さんの書斎!!」
「それにしたってなんでこんな重いんだ!?」
わらわらと廊下を塞ぐ三つの影。
アレン、レオ、ロベルト――騎士二人とお嬢様の料理人。
彼らの腕には、大きな花瓶。
しかも、ちゃぷん、ちゃぷんと水の音がする。
まさか、水入りのまま運んでいるのか?
「ちょっと、やめなさい」
そう声を発するより早く――
バシャーンッ!
派手な水音が廊下に響き、冷たい水しぶきが飛び散った。
そして、見事にレイの全身へ。
「す、すみません!!」
「わあ、びしょびしょですよ!」
「ど、どうするんだ!」
三人がそろいもそろって慌てふためき、右往左往する。
レイはというと、濡れた前髪を静かにかき上げ、眼鏡を外した。
水滴が顎先から落ちるのに、表情は驚くほど涼しい。
「いえ、大丈夫ですよ」
その落ち着きに、逆にこちらが焦る。
「大変申し訳ありません……!」
私は慌てて頭を下げた。
レイは軽く首を振り、穏やかに微笑む。
「お気になさらず。それより――」
視線を三人へ向ける。
「そもそも、なぜこんな大きな花瓶を運んでいるんですか?」
レオがオロオロしながら答える。
「お嬢さんの書斎に置いたらきれいだと思って!
お嬢さんも“好きにしていい”って言ってたからぁ!」
「だったら、なんで水を先に入れるんですか」
私の指摘に、三人は同時に固まった。
「た、たしかに……」
「盲点だった……」
「いや、普通気づくだろ……」
三者三様に肩を落とす姿が、なんとも言えず情けない。
廊下には水たまり、花瓶は空っぽ、そしてレイはびしょ濡れ。
静かな伯爵家の廊下に、妙な間だけが残った。

