第3部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

「お嬢様、お怪我は?」

アリスがいつも通り冷静に確認する。

「ないよ」

そう答えた直後――

「あ、あのー……」

恐る恐る、店員さんが近づいてきた。

「ありがとうございました。
えっと……ティアナ様、でよろしいでしょうか?」

そう言って、
私とアリスを交互に見る。

……まあ、そうなるよね。

今の私は侍女の格好。
そしてアリスは、どう見ても“お嬢様”。

「すみません。紛らわしくて」

私が苦笑すると、

「い、いえいえ!
本当に助かりました!」

店員さんは深く頭を下げる。

「正直、どちらが本物のお嬢様か分からなくて……」

「でしょうね」

アリスがさらっと頷く。

「でも安心してください。
強い方が本物ですから」

……その基準でいいの?

「基準それでいいのか分かりませんけど」

思わずツッコミを入れると、
アリスは満足そうに微笑んだ。

「何にせよ、ありがとうございました」

「こちらこそ」

店員さんが去ったあと、
私は小さくため息をつく。

「……また変な噂、立ちそう」

「今さらよ。ティアナちゃん」

ルイが平然と告げた。

……否定できないのが、ちょっと悔しい。