第3部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

「殿下とは……特には。
あ、でも婚約破棄しましょうって言ったの」

「はあ!? なんでよ!」

「だって婚約自体、ガイルの件があって……
きっと有耶無耶になると思うし。契約上のものだしね」

「それで、殿下はなんて?」

「……ため息ついてた」

「なら承諾してないじゃない」

呆れたように肩をすくめる。

「もう。あの殿下が、今さらあなたを逃すと思う?」

「うーん……」

「逃すわけないでしょ」

少しだけ意味ありげに微笑む。

「それに――
ティアナちゃんだって、まんざらでもないんじゃない?」

「……そうかも」

「もう」

くすりと笑ってから、ルイは優しく続けた。

「でもね。ディランの隣に立つってこと、
王妃になるってことでしょ?」

「……それは、荷が重すぎるよ」

「ふふ。正直ね」

ルイはくるりと彼女を回しながら、そっと囁く。

「その気持ち、ちゃんとそのまま伝えればいいのよ。
あなたの“本当の気持ち”を」

「え……」

「ちゃんと、聞いてくれるわよ」

「……ぜ、善処します」


音楽が、ゆっくりと終わりを告げる。

最後の一歩を踏み、
ルイは自然な動きで私の手を離した。

「楽しい時間をありがとう、ティアナちゃん」

そう言って、優雅に一礼する。

私もドレスの裾をつまみ、同じように頭を下げた。