第3部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

ゆっくりと息を吸った。

胸の奥で、冷たい何かがすとんと落ちた。
怒りでも、悲しみでもない。

――理解してしまったのだ。

この男が、何を恐れ、何から逃げ続けてきたのかを。
前を見据える。ガイルから目を逸らさずに。


「あなたは、
『王になって国を導きたかった』わけじゃない」

ガイルの睨むような視線を感じる。

「ただ――
力を持てない自分が、怖かっただけ」

「黙れ…!」

「制御できない力が怖くて、
失うことが怖くて、
選ばれない存在になるのが怖かった」

「黙れと言っている!」

ガイルの魔力が、びり、と荒れる。

それでも、声は揺れなかった。

「だから、その不安を消すために、
“王になる”という言葉にすがった」

「俺は……国のために……!」

「本当は」

言葉を重ねるように、静かに。

「誰かを守りたかったわけでも、
国を良くしたかったわけでもない」

「そんなことは……!」

「弱い自分を、認めたくなかっただけ」

一瞬、ガイルの言葉が詰まる。

「……っ」

「その恐れから逃げるために、
人を支配し、
力を独占した――」

「やめろ……!」

震えた声。

怒りでも威圧でもなく、
追い詰められた獣のような叫び。

まっすぐに彼を見据えた。

「ただの、愚か者よ」