沈黙。
次の瞬間、ガイルは喉を鳴らして笑った。
「はは……はははは!」
「そうか……そういうことだったのか」
眼鏡の奥の瞳が、興奮に濡れる。
「長年、欠けていた最後のピース。
最近になってようやく輪郭が見え始めたが――」
私を、はっきりと見据えた。
「まさか、生きていたとはな」
「やはりな。
あの女が、何も残さず死ぬはずがないと思っていた」
「そうだ。魔女の雫を、魔女の紅血へと変える。
そのために必要なのが――君だ、ティアナ」
胸が、ひやりと冷えた。
「君の共鳴。
君の血。
そして、君自身の存在」
「王にも、神にも、なれる力だ」
「……だから母を、利用した」
私の声は静かだった。
「利用?
研究者として協力してもらっただけだ」
悪びれもなく言い放つ。
「だが彼女は途中で怖じ気づいた。
これは“王国を救う力ではない”と騒ぎ立て、
研究の破棄を訴えた」
ガイルの目が細まる。
「愚かな女だ。
未来を恐れて、可能性を捨てるなど」
「……それで?」
震えそうになる声を、必死で抑える。
「それで、母は?」
ガイルは一瞬だけ黙り――
あっさりと告げた。
「事故を装った」
その言葉が、胸を貫く。
だが、涙は出なかった。
「彼女が最後に守ろうとしたのは、お前だ」
「研究記録を改ざんし、血統を消し、
娘が“ただの令嬢として生きられるように”細工した」
「……実に見事だよ」
くつくつと喉を鳴らす。
「そのせいで、私は長年“器”を見失った」
「だが――」
私を見る。
「……皮肉なものだ。
彼女が守り抜いた娘が、
自らここまで辿り着いてしまったのだから」
「ここまで生き延びたのなら――」
唇が、愉悦に歪む。
「もはや、逃がす理由もない」

