第3部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない


沈黙。

次の瞬間、ガイルは喉を鳴らして笑った。

「はは……はははは!」

「そうか……そういうことだったのか」

眼鏡の奥の瞳が、興奮に濡れる。

「長年、欠けていた最後のピース。
最近になってようやく輪郭が見え始めたが――」

私を、はっきりと見据えた。

「まさか、生きていたとはな」

 
「やはりな。
あの女が、何も残さず死ぬはずがないと思っていた」

 

「そうだ。魔女の雫を、魔女の紅血へと変える。
そのために必要なのが――君だ、ティアナ」

 
胸が、ひやりと冷えた。


「君の共鳴。
君の血。
そして、君自身の存在」

「王にも、神にも、なれる力だ」

 

「……だから母を、利用した」

私の声は静かだった。

 
「利用?
研究者として協力してもらっただけだ」

悪びれもなく言い放つ。

「だが彼女は途中で怖じ気づいた。
これは“王国を救う力ではない”と騒ぎ立て、
研究の破棄を訴えた」

ガイルの目が細まる。


「愚かな女だ。
未来を恐れて、可能性を捨てるなど」


「……それで?」

震えそうになる声を、必死で抑える。

「それで、母は?」


ガイルは一瞬だけ黙り――
あっさりと告げた。


「事故を装った」

 
その言葉が、胸を貫く。

だが、涙は出なかった。

「彼女が最後に守ろうとしたのは、お前だ」

「研究記録を改ざんし、血統を消し、
娘が“ただの令嬢として生きられるように”細工した」

 「……実に見事だよ」

くつくつと喉を鳴らす。


「そのせいで、私は長年“器”を見失った」

「だが――」

私を見る。

「……皮肉なものだ。
彼女が守り抜いた娘が、
自らここまで辿り着いてしまったのだから」


「ここまで生き延びたのなら――」

唇が、愉悦に歪む。

「もはや、逃がす理由もない」