第3部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

コンコン――
控えめで、遠慮がちなノック音。

「……どうぞ」

扉が静かに開く。

「ティアナちゃん……」
「お嬢様……」

聞き慣れた、やわらかな2つの声。

「よかった……ほんとうによかった。目が覚めたのね」

そこに立っていたのは、ルイとアリスだった。

いつもの余裕ある微笑みではなく、
どこか張りつめていたものがほどけたような、心から安堵した表情。

次の瞬間、ルイは迷いなく歩み寄り――
そっと、私を抱きしめた。

強くもなく、離れすぎてもいない。
壊れ物を扱うような、慎重であたたかな抱擁。

「……もう、心配させるんだから」

耳元で、息混じりに囁く。

「目を覚まさないって聞いたとき、
胸がぎゅっと苦しくなったわ」

背中を撫でる手は、驚くほど優しい。

「あなたはね、思っている以上に
たくさんの人の“居場所”になってるのよ」

そっと身体を離し、両頬に手を添える。

「だから……戻ってきてくれて、ありがとう」

その言葉に、胸の奥がじんと熱くなる。