第3部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

そのときだった。

「……あ、レオさんジャガイモ落ちてますよー」

少し間の抜けた声が、遠くから聞こえてくる。
廊下の角からアレンとロベルトが顔を出していた。

床一面に転がる芋を見て、

「うわ……派手にいったな!」

「これはあとで回収ですね」

なんて言いながら――

次の瞬間。

2人の視線が、私に向いた。

ぴたり。

動きが止まる。

じっと、じっと。

「……」

「……」

明らかに、様子がおかしい。

落ち着きなく視線を彷徨わせ、
腕を組んだり伸ばしたり、そわそわし始める。

「……な、なぁアレン」

「は、はい!」

「言っていいと思うか?」

「……今しかない気がします!」

2人して、ぐっと拳を握った。

そして――

「あの!!」

「お嬢様!!」

同時に声が上がる。

「俺たちも……」

「抱きしめてもいいですか!?」

勢いに押されて一瞬目を瞬かせたあと、

「……うん」

そう答えた瞬間。

「わぁっ!」

「失礼します!!」

左右から――

ぎゅっ!!

レオとはまた違う、
少し控えめで、でも全力の抱擁。

「よかったです……!」

「本当に……目を覚ましてくださって……!」

震える声が、耳元で重なる。

三方向からの温もりに包まれて、

「……ちょっと、くすぐったい……」

思わずそう呟くと、

「す、すみません!」

「力入れすぎました!?」

慌てて緩む腕。

でも誰も、完全には離れない。

少しだけ距離を残して、
確かめるように、まだ近くにいる。