第二部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

個室に通されソファへ向かい合って腰を下ろす。

目の前にいるのは“サーフェス”。
けれど、彼の正体がディラン殿下であることを、私はもう知っている。

この時間は、仮面越しの会話なのか。
それとも――本音の時間なのか。

心の奥が、わずかに緊張した。

「共闘の話をする前に、君に約束しよう」

彼は静かに手を差し出した。

「命を軽んじない。
 そして、本音で話す」

一瞬の間。

「――私と、共犯になってくれるかい?」

胸が、どくりと鳴った。

危険だとわかっている。
王子と裏の顔を持つ男との共闘など、正気の沙汰ではない。

それでも。

私は、彼の瞳から目を逸らさなかった。

「……わかりました」

差し出された手を取った、その瞬間。

ぐっと、想像以上の力で引き寄せられる。

「――え?」

次の瞬間。

どかん、と。

館全体を揺らすような爆音が、夜気を裂いた。

悲鳴とざわめき。
シャンデリアが震え、硝子が鳴る。

私は思わずサーフェスの顔を見る。

「手始めに、ここを“処理”することにした」

淡々と告げるその声。

仮面の奥の瞳には、冗談も迷いもなかった。
そこにあるのは――確かな覚悟。

「……そういうことは、もっと早く言ってほしいです!」

思わず声を荒げる。

けれど彼は、私の手を離さない。

むしろ強く握り返し、裏口へと引いていく。

逃げるためではない。
戦うための、最初の一歩だと――直感で理解していた。

甘い香りが漂う蝶の会は、
今まさに“狩り場”へと姿を変えようとしていた。