蝶の会の中は、相変わらず甘ったるい香の匂いに包まれていた。
花と香料、酒と欲望が入り混じったような、喉の奥に残る匂い。
今日は美術品の展示が主らしく、壁際には幾つもの絵画が並び、中央には宝石や彫刻が飾られている。
どれも高価で、希少で、美しい。
――けれど、不思議と心は動かなかった。
そんな中、一枚の絵画の前で、自然と足が止まる。
光り輝く満月に、必死に手を伸ばす人物。
その足元には、踏み潰された小さな紫の花。
タイトルは――
『幻想』
胸の奥が、ちくりと痛んだ。
なぜだろう。
ただの絵なのに、まるでこちらを見透かされているような気がした。
すぐ隣に立つ気配。
「サーフェス」
声をかけるより先に、彼が口を開いた。
「こんばんは、ルナ。この絵を見て、何を考えていた?」
黒髪に、金と黒を基調とした仮面。
会いたいと思っていた人物が、あまりにも自然にそこにいた。
「特に……」
そう前置きしてから、言葉を選ぶ。
「届くはずもない輝きを追いかけて、
すぐ足元にある幸せに気づかない――そんな、愚かな人かなと」
人物が踏み潰しているのは、すみれの花。
花言葉は“ささやかな幸せ”。
手の届くものには目も向けず、
届かぬ幻想だけを追い求める姿が、妙に胸に残った。
「そうだね。本当に愚かだよ」
低く落とされた声。
それは絵に向けられたものなのか、
他の誰かに向けられたものなのか。
一瞬、問い返したくなったが、やめた。
「ルナ。少し、話さないか?」
彼は絵画から私へと身体を向ける。
ちょうど、話をしたいと思っていたところだった。
「……ええ」
「では、内緒話をしよう」
人差し指を仮面の口元に添え、そう言って微笑む。
花と香料、酒と欲望が入り混じったような、喉の奥に残る匂い。
今日は美術品の展示が主らしく、壁際には幾つもの絵画が並び、中央には宝石や彫刻が飾られている。
どれも高価で、希少で、美しい。
――けれど、不思議と心は動かなかった。
そんな中、一枚の絵画の前で、自然と足が止まる。
光り輝く満月に、必死に手を伸ばす人物。
その足元には、踏み潰された小さな紫の花。
タイトルは――
『幻想』
胸の奥が、ちくりと痛んだ。
なぜだろう。
ただの絵なのに、まるでこちらを見透かされているような気がした。
すぐ隣に立つ気配。
「サーフェス」
声をかけるより先に、彼が口を開いた。
「こんばんは、ルナ。この絵を見て、何を考えていた?」
黒髪に、金と黒を基調とした仮面。
会いたいと思っていた人物が、あまりにも自然にそこにいた。
「特に……」
そう前置きしてから、言葉を選ぶ。
「届くはずもない輝きを追いかけて、
すぐ足元にある幸せに気づかない――そんな、愚かな人かなと」
人物が踏み潰しているのは、すみれの花。
花言葉は“ささやかな幸せ”。
手の届くものには目も向けず、
届かぬ幻想だけを追い求める姿が、妙に胸に残った。
「そうだね。本当に愚かだよ」
低く落とされた声。
それは絵に向けられたものなのか、
他の誰かに向けられたものなのか。
一瞬、問い返したくなったが、やめた。
「ルナ。少し、話さないか?」
彼は絵画から私へと身体を向ける。
ちょうど、話をしたいと思っていたところだった。
「……ええ」
「では、内緒話をしよう」
人差し指を仮面の口元に添え、そう言って微笑む。

