第二部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

あー……と、ユウリは分かりやすく頭を抱えた。
その反応、完全に「やらかした部下を見る上司」だ。

「これは私の責任ですね。本当に……何もなかったですね?」

来た。核心確認タイム。
私はぶんぶんと首を振る。

「うん、大丈夫だよ。だって殿下だよ?
選び放題の殿下が、私に手を出すわけないでしょ!」

……言い切ったけど、今さらながら自分で言ってて失礼じゃない?
いやでも事実だし。多分。きっと。

「……わりと一番要注意人物なんですけどね」

「なに?」

今、さらっと怖いこと言わなかった?
聞き返すと、ユウリは何事もなかったかのように続ける。

「まあ、いいです。でも、よく眠れたようですね」

確かに。
意外にもぐっすり眠れて、目覚めはすこぶる良好。二日酔いゼロ。
……殿下の部屋で爆睡してたはずなのに、この快適さは何?

盛大にやらかした自覚はあるけど、体調だけは完璧だった。

私は気持ちを切り替え、身支度を整えながら荷物をまとめる。
昨夜の自分、頼むからもう二度と酒を飲むな。

そのとき、

コンコン。

控えめなノックの音。

「おはようございます」

「あ、トワ。おはよう」

「昨日は先に寝てしまって、すみません。起きたころには、もうお姉様はいらっしゃらなくて」

申し訳なさそうな顔。
その純度の高い謝罪、私の荒れた心に効く。

「いいのよ。疲れてたんでしょう?仕方ないわ」

「すごく楽しみにしていたので……少し残念です」

……その一言で罪悪感が増すんだけど。
私、何してたんだろうね昨夜。

すると、空気を読まない声が飛んできた。

「あれー、トワ坊ちゃん。俺たちと楽しい夜を過ごしたじゃないっスか!」

楽しそうに話すレオ。

「もちろん、トランプは楽しかったですよ!
ユウリさんが一番強かったですよね」

「それはまあ……経験値ですね」

さらっと答えるユウリ。
いや経験値って何年生きてたらそんな強さになるの。

「ほんと、すごく強かったわよね」

ルイが言うと、レオは悔しそうに拳を握る。

「俺もまたリベンジしますよ!」

どうやら私が記憶を飛ばし、人生の反省をしている間に、
4人は4人で健全かつ平和な夜を過ごしていたらしい。

……うん、よかった。
少なくとも黒歴史は、私一人分で済んだようだ。