第二部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

「殿下ぁぁ……」

「……蝋燭の火、気をつけてね」

どうやら、テーブルの上の蝋燭を気にしてくれているらしい。

(そんなの、今どうでもいいのに……)


ソファに座っている殿下の前まで詰め寄る。

「前から思ってたんですけど」

「うん」

「殿下、やることがいちいち回りくどいんですよ!」

少し前屈みになって指を突きつける。

「本だってそうです。どうしてユウリに預けるんですか。直接渡しにくればいいじゃないですか!
……まあ、10年も気づかなかった私が一番アホなんですけど」

勢いで言い切ると、殿下は目を瞬かせ、それから困ったように――いや、楽しそうに笑った。

「今度からは、直接持って行くよ」

「そういうところです!」

なんでそんなに穏やかにニコニコしていられるんだ、この人は。

「殿下って、いつも笑ってますけど……内心、すごく冷めてますよね」

「うーん」

自分の頬を指でかきながら、殿下は少し考える素振りを見せる。

「そうかな」

その仕草すら余裕があって、腹が立つ。

感情を隠して、穏やかに振る舞う。
それ自体は、私も似たところがあるからわかる。

でも殿下のそれは、少し違う。

もっと深いところが、冷たくて暗い。
良い意味でも悪い意味でも、何事にもどこか無頓着で、距離を置いている感じがする。

――まあ、それも仕方ないのかもしれない。

王族という立場。
常に見られ、測られ、利用される世界で生きているのだから、感情を剥き出しにする方が無謀だ。

「殿下の立場なら、全部に本気になるなんて無理ですよね」

少し声のトーンが落ちる。

「取り繕って、感情を隠して……そうしないと生き残れない」

殿下は、そこで初めて笑うのをやめた。

「……ティアナ嬢は、俺をよく見ているね」

低く、静かな声。