第二部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

集中して本を読んでいたが、どれくらい時間が経ったのだろうか。
ふと視線を落とすと、いつの間にか飲み物が置かれている。

あ、置いてくれてたんだ。
ちょうど喉も渇いていたし、ありがたい。

「いただきます」

「あ、それは――」

殿下が何か言いかけたが、蝋燭の淡い灯りでよく見えないまま、私は口にしてしまった。

甘い葡萄の香りに、ほのかな酸味。
イチゴのような後味もあって、とても美味しい。

……気づけば、全部飲み干していた。

そして私は、この選択を激しく後悔することになる。

体が、ぽかぽかと熱い。
視界が、ぐわんぐわんと揺れる。

(……あれ?)

目の前を見ると、殿下が心配そうな顔でこちらを見ている。
いや、それ以前に――言いたいことが、ずっと胸に溜まっていた気がする。

なんだか、今なら何でも言えそうだ。
勢いに任せて、言ってしまおう。

「ティアナ嬢、大丈夫かい?
 それ、私の赤ワインだよ」

「だったら……なんですかぁぁ?」

「あらら」

足元がおぼつかないまま、のらりくらりと立ち上がり、殿下の方へ歩く。