第二部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない


「あ、そうだ、これ」

セナが手を差し出した。

「ん?」

私は無意識に手を伸ばす。
そこには、小さな小箱があった。
中を開けると、タンザナイトのピアスが揺れている。
蒼く淡く光る宝石が、一粒ずつ静かに輝いていた。

「……くれるの?」

「お嬢様に似合うと思って」

柔らかい声。
でも、どこか強さも混じっている。

私は小さく笑い、でもどこかぎこちなく、
「ありがとう」とだけ言った。

「つけてみますか?」

「うん、お願い」

そういうとセナの手が、そっと私の髪に触れる。
耳にかかっていた一房を、丁寧に後ろへ流す。

――近い。

耳元に、微かな違和感。
触れられているのは一瞬なのに、
まるで時間がゆっくり流れているみたいだった。

壊れ物を扱うような、優しい手の感触。

息をするのも、忘れてしまいそうになる。

「……じっとしててください」

低く、落ち着いた声。

胸の鼓動が、やけに大きく響く。

この距離、この空気。
騎士と主。
それだけじゃ説明できない何かが、確かにそこにあった。

それでも私は、何も言わない。

言ってしまったら、
この均衡が崩れてしまう気がして。