第二部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない


殿下はふと視線を上げ、私を真っ直ぐ見つめる。

「さて、どこから話そうか」

「先ほどのデホラ男爵の…あの宝石についてもご存知ですよね?」

殿下は知っているはずだ…


ディラン殿下は頷く。
「そうだ。あれは“魔女の雫”と呼ばれるものだ。単なる装飾品ではない。人の弱さや憎悪、恐れ、絶望――そういった感情を媒介として吸い上げ、力に変える。」

小さく息を飲む。

「集められた力は“魔女の紅血”となり、持つ者に途方もない力を与える。その代わり、理性や心を侵す。人は欲望に飲まれ、宝石と一体化してしまうこともある。デホラの場合は、野心や権力欲が強すぎて、完全に心を乗っ取られた。」

私は眉をひそめ、考え込む。
「じゃあ…浄化することや剣で止めることはできない…?」

殿下は紅茶を一口啜り、冷静に言う。
「魔女の雫の力を封じるには、単純な攻撃では不可能だ。
君が孤児院でやった 共鳴は、そこまで侵食が少なかったからできたもの。
だが今回のように、あそこまで侵食されたものは直接破壊して初めて、止められる。
侵食が行き過ぎたものへ 共鳴を使えば…ティアナ嬢 貴女が持っていかれる」

その言葉にドキッとする。
孤児院でミヤの宝石と共鳴した時、彼女の想いも流れてきた。
私も持っていかれる可能性があったのか…

今更ながら自分のしたことがこわくなった。


「だからこそ…ティアナ嬢 あまり共鳴は使わない方がいい。
わかったね」

殿下の視線が鋭くひかる。

「わかりました」

私が頷くのをみて、殿下の顔が緩む。

「だが…共鳴 についてかかれた 本を君に勧めてしまったのは俺だからね。反省もしてる」

肩をすくめる殿下。
確かに古書店にいって殿下の勧めてもらった本の内容にあったものだ。

「それはお構いなく…」