第二部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

「話してくれてありがとうございます」

「もう色々ありすぎて、頭がパンクしそう」

冗談めかして言ったつもりだったけれど、
声の奥に本音が滲んでしまったのかもしれない。


「何でも協力します。
それが俺の役目ですから」

その言い方が、頼もしくて――
でも同時に、胸の奥がちくりと痛んだ。

セナは、いつもそうだ。
自分のことは後回しで、私のために動く。

頼りになる。
本当に、心から。

それなのに、
もっと自分を大事にしてほしい、なんて思ってしまう。

――頼み事をしておいて、私はなんてわがままなんだろう。

「……ありがとう」

小さくそう言うと、
セナが一歩、距離を詰めてきた。

「なんでそんな、申し訳なさそうな顔するんですか。
あの時は俺のことを6人がかりで容赦なく倒しに来たのに」

イタズラに笑う。

「あれは…」

私が口籠っていると困ったように、でも優しく笑って。

「もっと頼ってください。
一緒に、何とかしましょう」

どうやら、私はうまく笑えていなかったらしい。
次の瞬間、ほっぺをむにっとつままれる。

「……あのぉ」

抗議しようとした声は、弱々しくて、
自分でも情けなくなる。

「大丈夫です」

セナは、断言するように言った。

「何とかなります」

「……うん」

不思議だ。
セナにそう言われると、本当に大丈夫な気がしてくる。

胸の奥にあった不安が、少しだけ形を失っていく。