第二部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

殿下はしばらく料理を眺めてから、私に視線を向けた。

「では、いただきましょう」

「はい、いただきます」

一口運ぶ。

……おいしい。

さすがレオだ。
思わずナプキンで口元を拭いながら、殿下には見えないよう膝の下で小さくガッツポーズをする。
それに気づいたレオが、誇らしげに胸を張った。

「素晴らしい。とても美味しいよ」

殿下は感心したように頷く。

「彩りも鮮やかで、見た目も美しい。
慣れない環境と限られた時間の中で、ここまで仕上げられるとは……さすがだね。
本当にスカウトしたくなる」

「いえ! ご用意してくださった材料が一流品ばかりでしたし、
周りの方々もとても親切で……楽しく作れました!」

レオは屈託なく笑う。

「でも、俺はお嬢様の専属料理人なので!
スカウトされても行きませんよ!」

……レオ、ありがとう。
引き抜かれたら、本当に困る。

「冗談だよ」

殿下が肩をすくめる。

「可愛い顔でこちらを威嚇する子猫がいるからね」

――誰が子猫だ。まったく。

食事は滞りなく進み、スープを飲み終えたころまたレオが入ってきた。良い香り。


「それでは、次はメインです。
牛フィレ肉のソテー、赤ワインソース添えになります」

レオが皿を並べた、その瞬間。

ゴロゴロ――
ガシャーン。

雷鳴が屋敷を揺らす。

ひどい嵐だ……と、そう思ったのも束の間だった。

――バンッ!

勢いよく扉が開く音が響き、思わずそちらを見る。

空気が、一瞬で変わった。