第二部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

「さすがに賢いティアナ嬢でも、そこまでは気にならなかったようだね。
昔お世話になった人との再会だ。感情が先に来るのも無理はない」

「……それもそうですね」

レイは一瞬だけ考え込んでから、静かに続ける。

「そういえば、ナタリーさんの部屋の外に、見張るように立っている人物がいました。
施設の職員にしては不自然でしたね」

「ほう」

「その人物についても調べておきます」

「お、さすがだね」

楽しそうに口角を上げる。

「そういうところにすぐ気づいてくれるから、レイのこと好きなんだよ」

「……非常に有難いお言葉です」

そう言いながらも、表情は一切変わらない。
相変わらずだ。

「まあ、いい」

背もたれに体を預け、視線を宙に投げる。
部屋の外で、雷鳴が轟いた。


ティアナ嬢が受け取ったという“小袋”のことを思い出す。

「ナタリーは何かを隠している可能性が高い」

「施設に潜り込んで調べますか?」

「いや、まずは静かに。
過去の経歴、ラピスラズリ伯爵家との関係、
そして――アイリスという女性との接点だ」

「承知しました」

レイは深く一礼する。

「ティアナ様には?」

「…まだ、知らせない。」

俺はそう続けた。

「さて――残るはデホラだ」

「動きますか?」

「ああ」

静かに、だが確信を持って告げる。

「餌はもう撒いた。
ああいう男は、不安と恐怖が膨らめば必ず動く」

窓の外で雷鳴が響いた。

「今夜にでも、のこのこ這い出てくるだろう」

私は立ち上がり、レイに視線を向ける。

「一階北側の窓を、少しだけ開けておいてくれ」

「……侵入経路を与える、と」

「そう」

薄く笑う。

「害虫駆除には、逃げ道が必要だからね」

レイは一礼する。

「承知しました」

嵐の夜。
闇に紛れて動く者と、闇を待っていた者。

今夜は、長くなりそうだ。