第二部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない


マーガレット老後施設。ナタリーが入所している場所だ。
ここに来るのは、随分久しぶりだった。
あんなにお世話になったのに、数回しか訪ねられていない自分を、少し情けなく思う。

施設の人にユウリが話をつけると、すぐに通してもらえた。

「こちらにどうぞ。ナタリーさん、だいぶ物忘れがひどいので、あまりわからないと思いますが」

「ええ、そうみたいですね」

ユウリ、殿下、レイさんも、静かに後ろからついてきてくれる。少し離れた所で周りを警戒するオーウェン団長。

「あちらです」

窓の外を静かに見つめる老婆。
随分と年老いてしまったのだな、と心の奥で感じる。

「ナタリーさん、お久しぶりです」

私を見て、ほんの一瞬、驚いたような表情をした気がした。

「おやぁ。だれだい?この可愛いお嬢さんは。
私にこんな娘はいたかなぁ」

「昔お世話になったティアナです」

目線を合わせ、ナタリーさんをじっと見つめる。


「そうかい、綺麗な子だねぇ。
頑張ってきた手をしてるね」

ナタリーさんが、私の手を取る。
剣術や馬術に励んできた手のひらの皮膚は硬く、他の令嬢の手とは違う。
それを、こうして褒めてくれる。

胸の奥が、じんわり熱くなる。
――泣きそうになる。

長い間、忘れられずにいた温もりが、今ここにある。
ナタリーさんの手の温かさと、穏やかな声に包まれ、心がふっと軽くなる。