それからのトワは、少しずつ変わっていった。
劇的な変化ではない。
けれど確かに――昨日とは違っていた。
私が「行こう」と声をかけると、
以前のように無言で距離を取ることはなくなった。
「……はい」
短い返事でも、逃げなくなった。
庭を歩き、街へ出かけ、
川辺で石を投げ、季節の花を眺めた。
最初はいつも一歩後ろ。
次第に隣へ。
気づけば、私の袖を掴む癖がついていた。
レオと一緒に料理をすれば、
卵を割るたびに真剣な顔をして見つめ、
「……殻、入ってます」
と小さく指摘してくる。
ルイに仕立ててもらった服を着ては、
落ち着かなさそうに鏡の前に立ち尽くし、
ヘアセットの仕方を教わると、
「すごいです」
と、素直に感嘆の声をあげた。
ユウリとの勉強の時間では、
理解が早すぎて逆に困らせてしまい、
「……他に補足はありますか」
と真顔で尋ねて、ユウリを苦笑させた。
セナに剣を教わるときだけは、
子どもらしく目を輝かせた。
木剣を握る手は小さいのに、
構えには一切の無駄がなく、
周囲がざわつくほどだった。
その様子を、少し離れた場所から
テオが何も言わずに見ていることもあった。
トワは相変わらず多くを語らなかった。
笑うことも少なく、
感情を表に出すこともほとんどない。
それでも――
夕暮れになると、自然と私の隣に立ち、
帰る時間になると、黙って袖を掴んだ。
それだけで、十分だった。
ある日、街で本を買った帰り道。
ふと、トワが立ち止まった。
「……楽しい、です」
消え入りそうな声だった。
聞き返そうとする前に、彼は顔を逸らす。
「その……こういう時間が」
胸の奥が、きゅっと締めつけられた。
ああ、きっとこの子は――
楽しさを“楽しい”と認識することすら、
今まで知らなかったのだ。
私はそっと、彼の頭に手を置く。
「そうね。私も楽しいわ」
トワは少しだけ目を伏せ、
それから、ほんのわずかに口元を緩めた。
それは笑顔と呼ぶには、あまりにも控えめで。
けれど確かに――
彼がこの場所に馴染んでいった証だった。

