第二部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

私は、静かに拳を握る。

「お父様は、どこまで知っていたんですか」

「すべてだ」
父は、私を見る。
「そして、何もできなかった」

その言葉には、悔恨が滲んでいた。

「立場上、私は動けなかった。
露骨に庇えば、逆にお前を危険に晒す」

「だから、厳しくしたんですね」

父は、視線を落とす。

「ああ……どう接すればいいのかわからなかった」

静かな声だった。

「お前を見るたび、アイリスを思い出した。
同時に……思ってしまったのだ」

喉を詰まらせるように、父は続ける。

「――私のせいで、
ティアナからアイリスを奪った、と」

その言葉に、息を呑む。

「守れなかった。
妻も、娘も」

長い沈黙が落ちる。

「だから私は、遠くから守るしかなかった。
監視し、隠し、危険から遠ざけることしかできなかった。
戸籍も隠して、マリアンヌにもそう頼んだ」

父は、初めて弱さを見せるように言った。

「それが……正しかったのかは、今でもわからない。
それにお前は遠ざけたり隠そうとしても真っ直ぐに困難に飛び込んでしまっていった。ほんとにアイリスにそっくりだ」

父が優しく笑う。
こんな顔初めてみた。

「私はダメな父親だよ。
守りたかったはずなのに 中途半端にしか真実を隠し通せない。優しくもできなかった」

私は、ゆっくりと首を振る。

「でも、お父様は守ろうとしていた」

父の目が、わずかに見開かれる。

「それだけは、伝わりました」

厳しさの奥にあったもの。
不器用で、臆病で、それでも確かな愛情。