第二部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない


「……お嬢様。」

その声は、いつもより低かった。

「ナタリー様が、亡くなったとのことです。」

一瞬、言葉の意味が理解できなかった。

「……うそ、でしょ?」

喉がひりつく。

「まさか……殺されたの?」

「いえ。医師の見解では、病死のようです。」

けれど、その言葉は続いた。

「ですが――ナタリー様が急に具合を悪くされたのは、お嬢様と面会された夜だと。」

胸が、嫌な音を立てて沈む。

「その後すぐ病院へ運ばれ、死亡が確認されたようです。」

「……どこの病院?」

嫌な予感が、はっきりと形を取る。

「セイドリック病院です。」

その名を聞いた瞬間、背筋が凍った。

「セイドリック病院……」

アレキサンドライト王国と、深い繋がりを持つ病院。
王族、貴族、そして――裏の案件も扱う場所。

「……まさか。」

唇が、かすかに震える。

「…関わってる?」

自分でも信じたくなかった。
それでも、疑念は止まらない。

私は懐から、小さなコンパクトを取り出す。

「それは……何ですか?」

「魔宝具よ。ディランからもらったの。」

ユウリの視線が、一瞬だけ揺れた。
――“ディラン”という呼び方に、わずかに反応したのが分かった。

けれど彼は何も言わず、問いただすこともせず、ただ黙って聞いている。
その沈黙が、かえって事態の重さを際立たせた。