第二部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

「そうだ……ユリアに聞きたいことがあったの。」

「何でしょう?」

そして、自室の引き出しから、慎重に小さな包みを取り出す。

「お待たせ……」

「いえ、大丈夫です。」

ユリアは柔らかく微笑むが、私のの手元の包みに目を細めた。
私はゆっくりと、包みからタネを取り出し、掌に載せる。

――ナタリーさんが、私に託した種。

「この種……何かわかる?」

ユリアは慎重にタネを眺める。
「んー……タネだけだと、なんとも……」

心臓が少し早鐘を打った。
「確か…オレンジの花が咲くって……」

「オレンジ……ですか……」

ユリアは自分のカバンから、擦り切れた図鑑を取り出す。
ページは使い込まれ、文字や写真がかすれかけている。

「たぶん…これです。」

差し出された図鑑を、私は息を止めるようにして見つめる。

「ラナンキュラス……?」

「はい。幾重にも重なった花びらが、中心の雄しべを隠すように咲く花です。」
ユリアの声は冷静だが、空気には緊張が漂う。

「そして……花言葉が、『秘密』です。」

私はタネを握りしめる。
その小さな粒には、ナタリーの思いと、誰にも知られてはいけない真実が宿っている気がした。