第二部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

「テオ……」

その名前を呼んだだけで、胸の奥に溜めていたものが溢れそうになる。

「私は……」

「言わなくていいよ」

やさしく遮る声。
それなのに、強い。

「だから、お嬢さまの行くところに俺も連れてって。
一緒に、背負わせて」

その言葉に、喉が詰まる。

「……私ね、テオが大切だよ。
テオには、陽の光が当たる穏やかな場所で、笑ってほしいって言ったでしょ?
それは、嘘じゃないよ」

震える声で続ける。

「でも……私、ずるいの。
これからテオを連れて行こうとしてる場所は、その逆。
暗くて……どうしようもない道かもしれない」

胸に手を当てる。
自分の鼓動が、こんなにも不安定だなんて。

「…テオが、私を想ってくれてるのを分かってて、
それに……漬け込もうとしてる」

言い切った瞬間、視界が滲んだ。

「お嬢さま」

テオの声は、静かで、揺れていなかった。

「俺ね。
お嬢さまがいない陽の光を歩いたって、
それは俺にとって……地獄と同じ」

そっと、両手を取られる。

「だったら、暗くてどうしようもない場所でもいい。
お嬢さまが、そこにいてくれるなら」

真っ直ぐな瞳。
迷いのない、覚悟の色。

「それは俺にとって、幸せなことだよ」

そのまま、目を逸らさずに続ける。

「だから――」

ぎゅっと、手に力がこもる。

「俺も一緒にいく。
お嬢さまと一緒に、陽の光が当たる穏やかで明るい未来を歩くために」

朝の光の中で、
テオが柔らかく微笑んだ。