第二部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

テオの言葉に胸が締めつけられた、そのとき。
ふと、耳元で揺れるタンザナイトが光を返す。

――セナ。

脳裏に、彼の声や笑顔がよぎる。

その一瞬の迷いを、テオは見逃さなかった。
触れていた指が、ほんのわずかに止まる。

「……今、セナ副団長のこと考えた?」

責める響きはない。
ただ、静かで、優しい問い。

答えられずにいると、テオは小さく息を吐いた。

「そっか」

それでも、離れない。
むしろ、そっと額を私の額に預ける。

「いいよ」

微笑みは穏やかなのに、胸の奥を締めつける。

「お嬢さまが誰かを大切に思ってるの、
ちゃんと分かってる」

指先が、タンザナイトをなぞる。

「それが俺じゃなくても」

その言葉に、胸が痛んだ。

「……でもね」

テオの声が、少しだけ低くなる。

「考えちゃうんだ。
この宝石を見て、
誰のことを思い浮かべてるのかとか」

苦笑まじりに、でも視線は逸らさない。

「今この瞬間、
お嬢さまの心にいるのは……誰なんだろう、って」

テオの親指が、私の手の甲をそっと撫でる。

「ただ……」

囁く声は、切なくて甘い。

「俺のことも、
少しは揺らしてくれてるなら……
それで、十分だから」

タンザナイトが、2人の間で静かに揺れた。