第二部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

セナside

煙が薄れ、騎士団の足音が遠ざかる。
ユウリがお嬢様を連れて先に下がり、残ったのは――俺と殿下だけだった。

夜風が、焼けた石と草の匂いを運んでくる。

「……殿下」

俺は、あえてそう呼んだ。
サーフェスでも、気さくな仮面でもなく。

殿下は足を止め、こちらを見た。
逃げも、誤魔化しもしない目だ。

「聞きたいことがあります」

「いいよ。君が黙っていられないのは、顔を見ればわかる」

俺は一度、拳を握り締めてから口を開いた。

「今回の件、理屈はわかります。
宝石に飲まれかけた連中を一箇所に集めて、核を壊す。犠牲は最小限だ」

殿下は黙って聞いている。

「ですが」
声が、少し低くなる。
「それを“守られる側”に知らせずにやるやり方は……俺は嫌いだ」

一瞬、沈黙。

「彼女――ティアナは、駒じゃない」

殿下の表情が、わずかに変わった。
だが、言い訳はしない。

「知っている」

「知ってて、巻き込んだんだろ」

「……ああ」

即答だった。

その潔さが、余計に腹立たしい。

「もし失敗していたら?」
「宝石の暴走が想定を超えていたら?」
「彼女が、間に合わなかったら?」

俺は殿下を睨む。
剣を向ける代わりに、言葉で斬る。

「そのとき、貴方はどう責任を取るつもりだった?
王子としてではない。一人の人間として、だ」