子午線の下で―私の時間を見つける物語―

 観望会が終わり、参加者たちが帰り始める。

「楽しかったです」
「よく見えました」
 そんな声が、あちこちから聞こえる。
 柚月は、出口付近で軽く頭を下げていた。
「ありがとうございました」
それが、自然に口から出ていた。

 さっきの男の子が、出口の前で立ち止まっている。
 ノートを広げ、空を見上げている。
「木星、どこかな?」
 母親が、同じように空を見上げた。
 柚月は、その様子を少し離れた場所から見ていた。

 最後の一組が帰ると、屋上には静けさが戻った。

「お疲れさまでした」
星野さんが言う。
「……お疲れさまでした」
言葉にすると、少しだけ実感が湧く。

 片付けを手伝いながら、ふと声をかけられた。
「さっき、助かりました」
年配の女性だった。
「子どもが、すごく喜んでいて」
一瞬、何のことか分からなかった。
「順番を待っている間、声をかけてくれたでしょう」
「あ……はい」
「安心したみたいです。ありがとう」
その言葉が、胸の奥に静かに落ちた。
 大げさではない。
 特別なことをしたわけでもない。
 でも、確かに、誰かの時間に触れた。
 星野さんが、少し離れたところから、その様子を見ていた。

 何も言わない。
 ただ、いつも通りの顔で、片付けを続けている。
 それが、ありがたかった。

 帰り際、夜空を見上げる。
星は、変わらずそこにある。
でも、今夜は、少しだけ違って見えた。