子午線の下で―私の時間を見つける物語―

 それからも、柚月は天文科学館に通い続けた。

 毎回、何かを手伝うわけではない。
 来館者として過ごす日もあれば、
 閉館後に少しだけ顔を出す日もある。

 役割は、まだはっきりしない。
 でも、それでよかった。

 ある日、星野さんが言った。
「柚月さん、ここに居るの、自然ですよね」

 問いではなかった。
 確認でもない。
「そうですか」
「はい。無理がない」
 柚月は、少し考えてから答えた。

「……ここに来ると、時間がちゃんと流れる気がして」

 急かされない。
 置いていかれもしない。

 星は、いつも同じように空にある。

 人は、来て、帰る。
 それだけだ。

 働く、という言葉は、まだ少し重い。
 
 でも、居る、なら。
 居ていい場所がある、というだけで。
 柚月は、それで十分だった。

 その夜、庭で望遠鏡を覗く。
 星は、変わらず輝いている。

 ノートを開き、いつものように書き留める。

 ・今日も、星を見た
 ・天文科学館に、居た

 次の観望会の日付が、ノートの余白に小さく書き足されていた。

 柚月は空を見上げ、ゆっくりと息を吐いた。

 子午線の町で――


 星のそばで、
 自分の時間の中に、居る。

 それが、柚月の居場所になっていた。

(終わり)