アースシールド♾️

 寮から5キロほど離れた、アースシールド♾️基地内にある病院の集中治療室。
 ベットに横たわる月が呼吸器をつけている。

ーーピッ、ピッ、ピッ。

 月が意識を取り戻さないまま10日が経った。
 私は毎日ここに来てガラス越しに声をかけているが、ぴくりとも動かない。
 運ばれた日から2〜3日は、ココちゃんも永久さんも月の様子を見にきていたが、ここ数日は来ていない。
 今日も来ていないのは、月に声をかけても何の反応もしないからだろう。
 全身包帯ぐるぐる巻きの状態だし、見るだけで辛いのだ。
 寮に戻ると、ふたりは毎日私に様子を聞いてくるのだから。

「……月。早く目を覚ましてくれ……」

 ガラスに額をぴたりとつける。
 月が運ばれた翌日。
 集中治療室の前で、神先生が月の状態を説明してくれた。

『月は右半身の骨がほとんど折れていて、内臓の損傷も激しい。心臓は動いているが、予断を許さない状況だよ』

 いつものチャラチャラした神先生はそこにはいなかった。

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 しばらく月の様子を見ていると「糸……」と、後ろから私の名前を呼ぶ声がした。

「永久さん、今日は来てくれたんですね」
 
 永久さんが私の隣に立つ。
 永久さんが来てくれたら、月も嬉しいだろう。

 ここ数日、ひとりで考え込むことが増えた。
 月が庇ってくれなければ、私がこうなっていたのだ。
 もし、自分が月と逆の立場だったら、どうだろうか。
 寝たきりだが、同期が来てくれたら嬉しいだろうな。
 月はきっと幼馴染として、私の元に毎日来てくれるだろう。
 そう想像ができた。
 だから、私は何があっても1日に一回は月に会いに来ようと決めたのだ。

「月は?」

「状態は変わりません、声はかけているのですが……」

「大丈夫だ。糸の声は月には必ず届いている」

「そうでしょうか……」

「月は糸が好きだからな」

「……え?」

「俺が知らないとでも思ってるのか?」

「……何をですか?」

「月が糸に告白したことだ」

「うそ……誰から聞いたんですか!?」

 驚いて目を見開く。
 永久さんの真剣な瞳とぶつかり、何だか目を逸らせなかった。

°。°。☆°。°。☆°。°。°。°。☆°。°。☆°。°。

 寮への一本道。
 日が沈みかけている。
 道の脇に生える背の低い花々が風でそよそよと揺れていた。
 花々の向こうには、緑色の木々がいつも通りの姿で、ギュウギュウに伸びている。

 永久さんに手を引かれるがままに病院を出たが、沈黙のまま歩き続けて数分が経つ。
 先ほどの質問には答えず、無言で私の手を引っ張りながら歩く永久さん。

「……ちょっと待ってください」

 手を解くと、永久さんは夕日が沈む遠くの空を見る。

「俺は……月から宣戦布告されたんだ」

「……宣戦布告?」

「永久には負けねえ。糸に告白したからって。……任務の前日だった」

「なぜ、永久さんにそんなことを言う必要が……」

「……俺も糸が好きだからだ」

「……え」

 永久さんが私のことを好き……?
 本当なのか……?
 気づかなかった……。
 月のときもそうだったが、自分に向けられている相手の気持ちに気づけないなんて。

「やはり気づいてなかったか」

「……だって、美人系が好きだと……」

「糸は美人系だろ」

「……え……」

 自分の容姿を褒めてくれる人は多いが、それは、父と母のフィルター越しの私だと思っていた。
 それに、私の顔は美人系なのか……?

「今言うべきことじゃないと思ってたんだ。月がこんな状態だから。でも、ここ数日考えて……月は遠慮してる俺に『永久の気持ちはそんなもんか。本気でいかねえの?』って言うと思うんだ」

ーーぐいっ。

 え……?
 突然のことで反応ができなかった。
 永久さんの腕が私の背中に回る。
 抱きしめられてる……?

「俺は月が目覚めたときに、俺も本気でぶつかってるって言いたい」

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 どうしたのもか……。
 永久さんにホールドされながら沈黙が続く。
 これは、この後何をするのが正解だ……?

「おっとっと! タイミング悪くすんませんなあ」

 永久さんとバッと離れてる。
 声の主を見るとそこには「子」と胸元にかかれたヤツが立っていたーー。
 前回の任務で取り逃していたヤツだ。
 くっ……足音にも気づかなかった。
 そして、もうひとり。
 隣には、見覚えのある白衣の男ーー。
 あいつは、二次試験の試験官だったヤツだ。