アースシールド♾️

 敷地内のマラソンコースで10キロ走った後、休憩しながら、携帯を取り出すと、なんとなく二次試験の結果を見返す。
 もちろん、二次も「合格」だった。
 突然発生した特異型を倒したと言う理由で、私は三次試験に進むことになったのだ。
 それに、ここ数日隕石の落下が急増した。
 二次試験のやり直しは、準備も含めて困難なのだろう。
 今年度は特異型を倒したものが三次試験に進むということだった。
 一緒に戦ったトシ、ココちゃん、サキさん、月、そして、永久さんは三次に進んだということになる。
 ほかにも特異型が発生していれば、その特異型を倒した受験者も三次にいるはずだ。
 三次試験は、日程が指定されたが、今年は個人戦ではなく、個人面接とのことだった。

ーーピンコン。

 携帯が鳴り、【ココちゃん】の表示を確認して開く。

《三次の日、決まったね。その日の午後、うちに来ない?》

《ありがとう、ぜひ。当日、試験終わったらどこかで待ち合わせよう》

《待ち合わせ了解! 通過順位順なら糸ちゃんのあと私が面接だから控え室でもいいかも。また当日話そう》

《ラジャ。紫村さんにもよろしく伝えてくれ》

 三次が面接なのは初めてだ。
 個人戦には自信があったが、面接となると今まで準備してきた力を全て発揮できるかわからない。
 ただ、私は全力を出すのみだ。

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 午前中の静かな応接室。
 磨き上げられた長机の向こうに、面接官が3人並んで座っている。

(人物データ照合:未登録)

 父や母の仲間との写真も全て記憶しているが、面接官の中に父と母の仲間はいないようだ。
 私は背筋を伸ばし、椅子に浅く腰かけた。

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「では、最後の質問です」

 中央の面接官が書類から目を上げた。

「天城糸さん。我が組織を志望した理由を聞かせてください」

 一拍だけ息を整えて、視線はまっすぐ相手に向ける。
 声は自然と落ち着いていた。

「はい。志望した理由は二つあります」

 面接官のペンが動く。

「一つ目は、アースシールド♾️の理念が“個の完成”ではなく、“組織だけでなく、地球全体に還元できる力の育成”を掲げている点です。その理念は、私が目指す生き方に合致しています」

「生き方、ですか」

「はい」

 小さくうなずいた。
 父と母が私に願っていた「思いやりのある人」というのは、他者があって成り立つことだ。
 地球全体に私の力を還元できる機会があるのであれば、こんなに嬉しいことはない。

「なるほど」

 面接官のひとりが厳しい目で呟いた。
 私のことを天城恭と雅の娘というフィルター越しで見ているのだろう。
 さぞ、ハードルが上がっているのだろうが、そんなことはどうでもいい。

「では二つ目は?」

 ほんの一瞬だけ視線を落とした。
 おそらく、私のことを両親を亡くした可哀想な英雄の娘と思っているのだ。
 ここで証明しよう。
 可哀想とは無縁の人生だと。
 すぐに顔を上げて、面接官の顔を見る。

「――私には、両親がいません」

 空気がわずかに揺れ、面接官の手が止まる。
 「知っているさ」という顔か。
 それとも「その話をするのか」という顔だろうか。
 どちらにせよ、私が話すことは事実のみ。

「第一次宇宙大戦で亡くなりました。突然で、準備の時間もありませんでした」

 声は乱さず、言葉の一つひとつを慎重に選ぶ。

「私は、父と母に守られている立場から、選び、決断し、責任を持つ立場へ移行せざるを得ませんでした。生活のこと、進路のこと、将来のこと――すべてを自分で考える必要がありました」

「お祖父様がいらっしゃったのでは?」

 最初から黙ってむすっとしていた面接官が初めて口を開いたかと思えばこれだ。

「祖父はとても厳しい人ですし、忙しいので、今でもほとんど話すことはありません」

「……大変でしたね」

 中央の面接官が同情する。

「いいえ。そのおかげで気づいたことがあります」

 まっすぐに面接官を見据える。
 知識や能力は、自分を飾るためではなく、生き抜くためにあるのだ。

「両親から、そして周りの人たちから多くのものを受け取りました。それを、地球に返せる人間になります。それが、私がアースシールド♾️を志望した最大の理由です」

 沈黙が続く。
 やがて、中央の面接官が小さく息を吐いた。

「……非常に力強い答えですね」

「ありがとうございます」

 褒められているわけではないだろうな。

「最後にもう一つだけ。あなたは、ご自身を“完璧な人間”だと思いますか?」

 さっきのお祖父様のことを持ち出した面接官だ。
 こんな質問、みんなにしているのだろうか。
 …おそらく、私にだけだろう。
 完璧ですと言わせたいのだろうが、そんなことはないので否定するほかない。

首を振り「いいえ。未熟です。迷いますし、怖くもなります」と言った後、静かに続けた。

「完璧になるためではなく、不完全でも前に進める人間になりたいと思います」

 面接官たちは、互いに視線を交わした。

「……本日はありがとうございました」

「こちらこそ、貴重なお時間をありがとうございました」

 私は立ち上がり、深く一礼した。