アースシールド♾️

 森の草木をかき分け、音源に近づくと、さっきよりはるかに大きな隕石が現れた。

「……え?」

 これは……大型を超えている……!

ーードドドドーン。

 地響きの方に目をやると、塔みたいに巨大な宇宙生命体と戦うペアの姿が見えた。
 生命体はうねり、体についたいくつもの目を光らせている。
 さっきまでとはまるで違う。

「……あんなの見たこともない」

 あまりの大きさに、永久さんの表情さえも引きつっていた。
 考えるより先に足が動いた。

ーータッタッタッタッタッ。

 あのふたりを助けなければ。
 ある程度近づくと、戦うふたりがよくみえる。

「何コイツ! 強すぎ! 月! なんとかして!」

「るせえ! 今考えてんだよ!」
 
「月!」

私は思わず声をあげた。

「幼馴染か」

「はい。ヤツは私が引き受けます。その間にあのふたりと作戦を」

「ラジャ。頼んだ」

 永久さんと二手に分かれる。

「下がって!」

 月とペアの女子に向かって指示を出す。
 ふたりは、私の言葉通り、ぴょんぴょんぴょんっと巨体と距離を置いた。
 私は、全速力で走り、助走をつけ、力強く足を踏み切ってジャンプする。
 スーツの効果で5メートルほど跳び、巨大生命体に刀を振り下ろす。

ーーキイイイイイイイイイ。

 生命体が雄叫びを上げた。
 恐竜のようなごつごつした分厚い肌をしている。
 効かないか。
 強さが桁違いだ。

ーーザザザザっ。

 着地したが、攻撃の反動で後ろに下がるしかなかった。
 お祖父様と出向いた演習で、この剣で倒せなかった大型はほとんどいない。
 これは……特異型だーー。
 正隊員の下っ端でも倒せない階級の生命体。
 この試験、何かあるーー。

「永久さん! 月! コイツは大型じゃない! 特異型だ!」

 大きな声で状況を伝える。
 永久さんと月たちは、少し離れた位置で次の動作に移れるように構えていた。
 私が与えた一撃の間に、この準備だ。
 さすが永久さんと月だな。
 だが、そんな一瞬の作戦で倒せる相手ではない。
 一度引くのがセオリーだ。

「物体が固い。急所を狙い、一発で仕留めるしかない!」

「素早さはないな、一度引こう!」

 永久さんも同じ考えか。
 方向転換し、3人のいる方へ全速力で走る。

ーーグオオオオオオ。ドスン。ドスン。

 追いかけてくる巨体は、大きいだけでスピードがない。
 少し走ると、隠れられそうな洞窟を見つけて全員で避難する。
 あの巨体では、ここの中には入ってこれないだろう。

「糸、大丈夫か? あいつ……やべえな」

 すぐさま私に駆け寄り、乱れた髪を整えてくれる月。
 「大丈夫だ」と、月の手を払った。
 いつものことだが、今はなんとなく永久さんに見られたくない気がした。
 全員がやっと一息ついた様子で地面を見ている。

「……トワ様、助けてくださって本当にありがとうございます♡」

 片や女子の方は、妙に永久さんに愛嬌を振りまいている。
 さっきの巨体にビビってるかと思えば、肝が据わってるな。

「礼なら、糸に言え」

ーードキッ。

 永久さんにまた"糸"と呼ばれて心臓が跳ねる。
 さっきはご家族の話を聞いていてあまり意識していなかったが、なんだこの気持ち。
 えー!と口を詰むんでそっぽを向く女子。
 その子を横目に私と永久さんと月は、自然と3人で円になる。

「さっきはありがとな。サキもなんとか言えよ!」

 月が私と永久さんに頭を下げた。

「天城糸になんて、お礼を言いたくないわ! トワ様がいたから、逃げる選択肢ができたんですもの!」

「逃げてねえ! 引いたんだよ! てか、そんなことはどうでもいい! サキ! いいから礼を言え!」

「うるさいなー。……ありがとうございましたー」

 ムスッとしながら棒読みでお礼を言って、3人の輪に加わるサキさん。
 サキさんがしゃがむと、それに合わせて全員がその場に座った。
 というか、永久様って……どこかの国の王子様か。
 でも確かに。
 永久さんは、無表情だが、容姿は白馬の王子感あるかもしれない。

「あの巨体がいくらのろくても、そんなに時間は稼げないので、手短に自己紹介を。作戦はその後に」

 私が切り込むと、こくんと首を縦に振った永久さんが話し始める。

「金縄永久。14だ。持久力と戦法には自信があるが、パワータイプではない」

「天城糸。12歳。月とは幼馴染です。一度見たものは忘れません。パワー、スピード、忍耐力、全て自信があります」

「俺は、黒羽月! 糸と同じ年で、俺は体術なら糸にも負けない。体力もある方だ」

 そして、少しの間の後、女の子が口を開いた。

「白谷サキよ、14歳で試験を受けるのは初めて。家の方針で14歳までは受けられなくて。我が一族は毒使いなの。やつは毒を効かせるには肌が厚すぎるわね…」

 毒か……。
 サキさんの攻撃力はあまり期待できなそうだ。
 永久さんと月は体力がある。
 ただ、月は超近距離型だ。
 町で倒した小型レベルなら銃が効くが、試験の生命体にはダメージを与えられないだろう。

「3人の情報を念頭に、あの巨体の攻め方を提案します」

 木の枝で地面に大きな丸を描く。

「これが、あの巨大生命体です」

「で、ここか」

 月が、丸の横にバツをつけた。

「そう、急所だ」

 私の顔を見て、月と永久さんがこくんと首を縦に振った。

「近づくと、首の後ろあたりを守っているように見えました。目がたくさんついていたが、体の前側だけで後ろにはないと思われます。だから……」

「「「背後から攻める」」」

 私以外の3人の声が重なった。

「だったら、誰かが気をひくしかねえな」

 月が立ち上がって私の背中をポンと叩いた。

「俺が囮になる」

「月、囮なら私が…」

「糸、ここは月に囮になってもらおう。お前はパワータイプだ。首の後ろを切るなら糸が適任だ」

「な! 俺にまかせろ!」

 月が強くこぶしをにぎった。
 サキさんは少しだけ首をかしげている。

「……もし、囮だと気づかれたら?」

 一斉にしんと静まり返る。

「……囮は2名必要だ」

 永久さんの真剣な表情……。

「ふたり?」

 サキさんが不安そうに聞く。

「月と俺でいく。ふたりで向かえば、囮だと気づくまでに時間がかかるだろう。女子2名を逃したと思わせるほかない」

 永久さんは、小さな丸を二つ描いた。

「敵は、動きが遅くて反応もにぶいです」

 私が言うと、永久さんが続ける。

「だから、俺と月のどちらを先に倒すか、選ぶのに、少し時間がかかる」

「その、少しがほしいです。私はそれでヤツを叩けます。必ず」

ーーグオオオオオオ。

 4人で「はっ」と顔を見合わせた。

「もう来たか」

「月、同時に出よう。俺は右へ」

「わかった、俺は左だな」

「サキは、糸に合図を出せ! 俺たちに夢中になった瞬間に糸が首を取る作戦だ」

ーードンッ!

 巨体の腕が地面を叩いた。

「行くぞ」

 永久さん合図で、月と永久さんが一緒に洞窟を出た。

「私もタイミングを見計らって外に出ます。サキさんは様子を伺いながら合図が出せる場所へ移動してください。草笛は鳴らせますか」

「え!? うん、た、たぶん」

 草笛に適したツバキの葉をサキさんに渡す。
 演習場に入ってすぐに、何かに使えるかもとポケットに入れておいたもの。

「お願いします」

 サキさんをおいて、私も洞窟を飛び出した。

°。°。☆°。°。☆°。°。°。°。☆°。°。☆°。°。

 洞窟を出た後、気づかれないように、ヤツの後ろに回り込む。
 月と永久さんの様子を把握しながら、攻撃のタイミングを伺っていた。

「くっ……!」

 ヤツの攻撃を受けて、月が、後ろに下がった。
 胸がどくん、と鳴る。
 ……おかしい。
 やっぱり、この生命体、強すぎる。
 
(ケースNo.3695、特異型、音は聞こえない、弱点:首後ろ)

 記憶を呼び起こし、父と母の戦闘記録とこの巨体の特長を照らし合わせる。
 そのときだった。

「糸! 後ろ!」

 永久さんの声が、風のように飛んできた。
 背後には別の黒い影が、すぐそこまでせまっていた。
 巨体に集中しすぎて、意識が向いてなかった。

ーーカキーン。

 振り向きざまに、一撃を喰らわせて、距離を取る。
 中型か。

「永久さん、私はこいつをやります! サキさんには草笛を頼んであるので。その巨体は音は聞こえないタイプの特異型です!」

 ふぅっと息を整える。
 月は、ずっと逃げ回っているから限界寸前だ。
 永久さんもいつまで持つかわからない。

ーーふわっ。

 そのとき、私の視界が紫の糸のようなものに包まれた。

「糸ちゃん、遅くなっちゃってごめんね」

 小さな背中。
 ココちゃんだと気づく。

「待たせたな! 円の舎弟! 久しぶりだな」

 続けて応戦した赤髪は……トシか……。
 待て。
 円の舎弟はお前だと思うぞ。

「ココちゃん、トシ……」

ふたりの背中が、もうひとりで戦わなくていいと思わせてくれる。

「ここは、俺とココでやる! 巨体の方に行ってやれ!」

「……ありがとう。任せた」