迷信の生贄花嫁、食べられると勘違いしたまま竜王陛下の溺愛が始まって戸惑ってます~食べるって物理的な意味ですよね?~



「……ろ。フィー、……起きろ」
「ふにゃ」

 低く掠れた声と吐息が耳朶に触れる。
 誰かに起きるよう声をかけられている。

 まだ眠っていたいけれど起きなければ。このままだと相手に迷惑がかかってしまう。
 フィリーネがゆっくり目を開くと、室内は既に朝の色に包まれていた。

 一瞬、自分がどこにいるのか分からなくて面食らう。
 しかし、昨夜の出来事を思い出して瞬時に覚醒した。

「ご、ごめんなさい。先に寝てしまいました!!」
 ガバリと起き上がったフィリーネは居住まいを正して頭を下げる。

 シドリウスが眠るまで起きていると大口を叩いておいてなんたる失態。
 起きているどころか先に眠ってしまった。しかも、口からは涎が垂れているではないか。
 服の袖で涎を拭き取ったフィリーネはシドリウスの顔を直視できずに俯く。

「ああ、恥ずかしいです。穴があったら入りたいです。……いえ、寧ろ今から中庭へ行って掘ってくるので埋めてもらいたいです」
 涙目になっていると、温かくて大きな手がフィリーネの頭の上にぽんとのった。

「馬鹿を言うな。フィーがくっついてくれたおかげで、数分と経たないうちに眠れたんだぞ」
 フィリーネはシドリウスの親指に顎を持ち上げられる。そこには穏やかに微笑む彼の顔が間近にあった。

「私に気を遣ってくださっているのすか?」
「気など遣っていない。フィーを前にして寝てしまうなんて俺自身が驚いているし、我ながら図太い神経をしていたんだと落ち込む……ところではあるが、おかげで百年ぶりに熟睡できたし、悪夢も見なかった。こんなに清々しい気持ちで目覚められたのはいつぶりか分からない。本当にありがとう」