彼は魅惑のバレリーノ


お風呂から出た柊くんが、髪をタオルで拭きながらリビングに入ってきた。

……色っぽすぎる。
濡れた髪、ゆるい部屋着、タボっとした袖。
全部が反則。

軽くドライヤーをし終えたあとで口を開く。


「あのさ。俺、明日は日本公演の打ち合わせと、午後は合わせがあるけど……
19時には帰れるから。夜は一緒に食べよう。」

「わかった。」

自然に “一緒に” と言われると、胸がじんと温かくなる。

「これ、合鍵。」

差し出された小さな鍵に、思わず固まる。

「え? いいの?」

「ないと大変でしょ。
……悪用はしないよね?」

ニヤッと笑うその顔が、また心臓に悪い。

「し、しません。」

「なら、よろしい。」

軽く言うくせに、どこか特別感がある。

「えっと、一華さんは基本平日勤務?」

「うん。9時から17時まで。繁忙期は帰りが遅くなることもあるけど。」

「了解。」

「柊くんはどんな感じなの? 忙しいんじゃないの?」

「俺は、いまは日本公演の練習や打ち合わせ。
それ以外は海外のクライアントとリモートで打ち合わせしたり、振り付け指導したりかな。」

「へえー……すご。」

「ありがたいことに、仕事はあるんだよ。」

肩をすくめる仕草が、妙に大人っぽい。

「さすが売れっ子プロバレエダンサーだ。
大丈夫? 私、迷惑じゃない?
だるくなったらすぐ言ってね!」

「まさか。
俺……一度決めたら揺らがないよ。
だから気の済むまでいなよ。」

その言葉が、胸の奥にじんと響く。

「わ、私だらしないよ?」

「大丈夫だよ。
俺がちゃんと一華さんの生活態度、整えてあげるから。」

「そ、そっち!?」

「うん。会えなかった二週間さ……
ご飯食べてるかなーとか、ちゃんと寝てるかなーとか、ずっと心配してた。
だから近くで見れる方が安心する。」

……優しい。
優しすぎる。

こんなの、勘違いするなって方が無理。

胸がぎゅっとして、息が少しだけ詰まる。