彼は魅惑のバレリーノ

「荷解きおわった?」

ひょこっと顔をのぞかせる柊くん。
その柔らかい声に、張りつめていた肩の力が少し抜ける。

「うん。」

「夕飯にしよう。」

部屋を出た瞬間、ふわっとスパイスの香りが鼻をくすぐった。
温かくて、どこか安心する匂い。

「カレーだ!」

思わず声が弾む。

「簡単なもので悪いけど。良かったら。」

「ありがとう。お腹空いた。」

テーブルには、細かく刻まれた大豆や玉ねぎ、にんじん、じゃがいもがたっぷり入ったキーマカレー。
横には彩りのいいサラダ、そして湯気の立つかぼちゃスープまで並んでいる。

……手際、良すぎる。

「いただきます。」

「どうぞ。」

一口食べた瞬間、思わず目を見開いた。

「おいしすぎ。」

「それは良かった。」

柊くんは少し照れたように笑う。
その笑顔が、今日の疲れをふっと溶かしていく。

食べ終わったところで、私は立ち上がった。

「私片付けるよ!」

「いや、いいよ。」

「いや、やらせて! もう私、何もしてないから。」

そう言うと、柊くんは少しだけ考えてから、

「じゃあ、一緒にやろう。」

と、穏やかに言った。

二人で並んで私が軽く洗った皿を食洗機に柊くんがつめていく。
キッチンに立つ肩が時々触れそうで、触れない。
その距離が妙にくすぐったい。

水の音と、食器が触れ合う小さな音だけが響く。
だけどその静けさが、不思議と心地よかった。