彼は魅惑のバレリーノ


「これ……ダメそうね。
他の部屋も今は空いてないし。」

大家さんは濡れた天井を見上げて、深いため息をついた。
困り果てた表情のまま、ちらりと横に立つ柊くんへ視線を向ける。

そして、にやりと意味ありげに口角を上げた。

「やだ、彼氏さんの家に泊まればいいんじゃない??」

「えっ!?」

声が裏返った。
か、彼氏じゃないんだけど……!!
顔が一気に熱くなるのが自分でも分かる。

そんな私の動揺をよそに、柊くんは落ち着いた声で言った。

「そうだね。
一華さん、部屋余ってるから……良かったらうち来ない?」

「本気で言ってる?」

「うん、本気。」

迷いのない目だった。
その真っ直ぐさに、胸がどきりと跳ねる。

「あー、とりあえず良かったわね!」
大家さんは安心したように手を叩いた。

「私はちょっと上の階の人と話をするから。また詳しいことは連絡しますので。」

そう言い残して、ぱたぱたと階段を上っていってしまった。

残されたのは、濡れた床と、ぽたぽた落ちる水音と、私たち二人。

静けさが戻った瞬間、急に恥ずかしさが押し寄せてくる。

「あの……お、お世話になります。」

「うん。よろしく。」

柊くんはふわっと笑った。
その笑顔が、さっきまでの不安を少しだけ溶かしていく。

胸の奥がじんわり温かくなる。
こんな状況なのに、なんだか心臓の音ばかりが大きく聞こえる。