「はい。あったかいお茶どうぞ。」
差し出されたコップから、ふわりと湯気が立ちのぼる。
私は両手で受け取り、ほっと息をついた。
「ありがとう。本当優しい王子様だね。こんなことされたら、みんな柊くんのこと好きになるね。」
軽い冗談のつもりで笑うと、柊くんは一瞬だけまばたきを止めた。
その変化に気づいたときには、もう彼の表情はいつもより少しだけ真剣になっていた。
「ねぇ、俺が誰にでも優しいと思ってる?」
「え?」
コップを持ったまま顔を上げると、柊くんは机に片肘をつき、まっすぐ私を見ていた。
その視線に、胸の奥がきゅっと縮む。
「それ勘違いだよ。」
「うそだー。」
笑って返したのに、柊くんは笑わなかった。
代わりに、静かに息を吸い込む。
「一華さんにだけだよ。
俺が優しくするのは…。」
その言葉が落ちた瞬間、部屋の空気が変わった。
湯気よりも熱いものが胸の奥に広がって、私は思わず視線をそらす。
「そんな訳…ない。」
自分でも驚くほど弱い声が漏れた。
柊くんは少しだけ目を細め、何かを言いかけて、結局飲み込む。
「まあ、今はいいや。」
立ち上がる彼の背中は、どこか照れくさそうで、でも逃げているようにも見えた。
私はコップを握ったまま、さっきの言葉が頭の中で何度も反響していた。

