彼は魅惑のバレリーノ


「——一華さん。」

「し、柊くん!?どうして?」

会社のそばのベンチに座る柊くんが、街灯に照らされていた。
夜の冷たい空気の中で、彼だけがぽっと温かい光をまとっているように見える。

「とりあえず車、近くに置いてあるから乗って。送っていく。」

そう言って、迷いなく助手席のドアを開けてくれる。
その仕草があまりにも自然で、優しくて、胸がきゅっとなる。

「ありがとう。」

座席に沈み込んだ瞬間、体の力が抜けていく。
車内の温度と、彼の気配に包まれて、ようやく呼吸が落ち着いた。

エンジンをかけながら、彼がぽつりとつぶやく。

「心配で…見にきた。
前にもらった名刺に会社の住所があったから。
ごめん。勝手に。」

申し訳なさそうに笑う横顔。
その目が、ほんの少しだけ不安そうで。

「ううん、むしろ心配してくれてありがとう。
正直、歩く元気なくて助かったよ。」

ふーっと息を吐くと、胸の奥の緊張がほどけていく。

彼はハンドルに手を置いたまま、
ちらりとこちらを見て、安心したように小さく息をついた。

「ならよかった。」

その声が、静かな夜にやわらかく落ちる。

その一言だけで、
今日の疲れが少しだけ溶けていく気がした。