彼は魅惑のバレリーノ

「あの深山さんはただの…職場の人?」

少し温度の低い声が横から落ちてきて、私は思わずまばたきをした。

「同期だよ。爽やかだよね。社交性もあって、仕事もできるの。
社内でも人気者だよ。私とは天と地ほどちがう人種だね。」

「え?そう。」

柊くんは短く返すけれど、その視線はどこか探るようで、
私はなんとなく胸の奥がざわついた。

「ほら私はさ、黙々と絵を描いたり昼寝したりしてると一日がすぐ終わっちゃうほど家大好きなインドアだけど、彼はバリバリの体育会系。今日も休日にフットサルだよ。
もうすごい健康的だよね。」

「ふーん、なるほどね。…あ、ベンチ座ろう。」

「うん。」

並んで腰を下ろすと、少し溶けた桜のフラッペが
春の風にほんのり甘い香りを漂わせた。
ストローを吸うと、舌に広がる甘酸っぱさが心地よい。

ふと横を見ると、柊くんも同じようにフラッペを飲んでいて、
その喉が小さく上下するのが目に入る。
なんだか妙に意識してしまう。

「あ、それよりもさ。」

「ん?」

ストローをくわえたまま、の彼に声をかける。

「さっきさ、名前呼びしたよね!?
びっくりしたんだけど!」

「あ、今更。
もしかして…嫌だった?」

こてん、と小首をかしげる仕草があまりにも自然で、
胸の奥がきゅっとなる。
その瞳はまっすぐで、ほんの少しだけ不安を含んでいるようにも見えた。

距離が近い。
春の空気がふわりと揺れて、
二人の間だけ温度が違うみたいだった。