彼は魅惑のバレリーノ


「一華さんにモデルを頼まれてまして。
バレエダンサーしてます。」

柊くんは、礼儀正しく丁寧に説明する。

「へぇ、バレエダンサー。すごいですね。」

深山は素直に感嘆の声を上げる。
スポーツ帰りの熱が残る顔に、爽やかな笑みが浮かんだ。

「いえ、そんなことは。」

柊くんは軽く首を振る。
その仕草がまた柔らかくなる。

「あ、引き留めてすみません。
フラッペ溶けちゃうな。」

深山が私の手元を指さす。
桜色の氷が、春の日差しに少しずつ溶けていく。

「ううん、大丈夫。」

そう返すと、深山は軽く手を振った。

「じゃあまた明日、如月。
えっと…戸神さんも。」

「うん。またね!」

「失礼します。」

深山がそう言って歩き出すと、柊くんも礼儀正しく微笑み返した。
二人の間に流れる空気は穏やかだけど、どこか探り合いの余韻が残っている。

深山の背中が遠ざかっていく。
その瞬間、隣の柊くんがちらっと後ろを振り返った。

――深山の方、見てる?

そう思ったけれど、彼はすぐに視線を戻し、私の方へ向き直る。
その目は、さっきより少しだけ真剣で、少しだけ近い。

春の風がふわりと吹いて、二人の間に桜フラッペの甘い香りが漂った。