彼は魅惑のバレリーノ

桜フラッペの甘い香りがふわっと立ち上る。
さっきまでの出来事を思い返して、胸の奥がまだざわついていた。
――ほんと心臓に悪い。
海外に長くいると、距離感とか言葉の近さとか、ああいうの普通になるのかな。
そんなことを考えながら、店先で二つのフラッペを受け取った瞬間だった。

「あれ、如月?」

背中に落ちてきた声は、聞き慣れすぎていて一瞬で誰かわかった。
振り向くと、深山が汗を拭きながら立っていた。
フットサル帰りらしく、首元のタオルがまだ湿っている。

「深山?」

まさかの再会に、思わず目を瞬かせる。
この辺にフットサル場があるなんて知らなかった。

「何してるの?」
深山は軽く息を整えながら、自然に距離を詰めてくる。

「美術館行ってきたんだ。」

「この辺だったんだね。」
そう言いながら、彼の視線がゆっくりと下へ落ちる。
手に持った二つの桜フラッペ。
そのピンク色の氷が、妙に存在感を主張していた。

「一人?…じゃなさそうだね。」

深山の目が、フラッペから如月の顔へ戻る。


「うん、二人できてる。」

答えた瞬間、深山の眉がわずかに上がった。


「へぇー。それってさ――」

言葉の先をわざと濁すように、深山が口角をゆっくり上げる。
春の風がふっと吹き抜けて、桜フラッペの甘い香りが二人の間に漂った。