彼は魅惑のバレリーノ

桜並木を歩く柊くんは、淡い光の中で本当に絵みたいだった。
風が吹くたび、花びらが彼の肩に落ちて、なんだか幻想的。

「なんか柊くん、桜似合うね。」

「え? そう?」

「うん、なんかいい。」

「それ言ったら、如月さんのほうでしょ?」

「え? 初めて言われたよ!」

「だって…一華さんって名前。
華が入ってるから。俺より似合ってるよ。」

——え。

一瞬、時間が止まった気がした。
初めて呼ばれた“下の名前”が、春の空気に溶けて胸に落ちてくる。

ふわりと風が吹き、桜の花びらが舞う。
その中で、柊くんの手がそっと伸びてきた。

「ほら、桜も引き寄せられてる。」

…この男は…。

「そうやってたぶらかすんだね。
末恐ろしい子だ。」

「なにそれ。」

クスッと笑うその顔が、またずるい。
名前を呼ばれた余韻がまだ胸に残ってるのに。
恥ずかしさを誤魔化すように私はお店を指さす。

「あ、春のカフェだって!
ねぇ、桜のフラッペおいしそうじゃない?」

「いいね。」

「私買ってくるよ。桜のフラッペでいい?
あ、甘すぎるかな?」

「それで。」

柔らかい声。

「りょ、了解! ちょっと待ってて!」

顔が熱くなるのをごまかすように、私は小走りで店へ向かった。
背中に春の風と、彼の視線がそっと触れた気がした。