彼は魅惑のバレリーノ


「俺さ…昔、同じ絵を一時間ずっと見てたことがあるんだ。
ほら、心が動かされた絵があるって少し話したでしょ?」

「うん。」

どんな絵だったんだろう。
彼の心を動かした絵——気になる。

「あの絵のおかげで、俺はこの道を歩けてると思う。」

そう言った柊くんの横顔は、どこか遠くを懐かしむようで、
いつもよりずっと大人びて見えた。

「素敵な絵だったんだね。」

「うん、すごくね。」

「そう思ってもらえたら、描いた人も嬉しいだろうね!」

「そうかな。」

少し照れたように目をそらしてから、彼は続けた。

「でも、俺…如月さんの描く絵、好きだよ。」

「え?」

「まだスケッチブックしか見てないけどさ。」

「あ、ありがとう!
実はね、久々に超大作描きたくなったんだよね!」

「へぇー。」

「柊くんのおかげ!
そしてモデルありがとう!
絵が完成するまでは…どうにか契約続行したいです。」

素直に言うと、彼が瞬きを一つ。

「…いつ契約したの?俺。」

「え!?してない?」

「した覚えはないけど。」

「わかりました。
好きなものを食べなさい。お姉さんのおごりです。」

「はは、賄賂だ。」

ゆるりと笑いながら、メニューを開く。
その笑顔が柔らかくて、胸の奥がじんわり温かくなる。